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函館地方裁判所 昭和23年(行)4号 判決 1949年11月21日

原告

古川勇助

外二名

被告

凾館市選挙管理委員会

主文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

請求の趣旨

原告等訴訟代理人は、被告が昭和二十三年八月三日訴外米田米蔵の請求に基いてなした、凾館市湯の川地区農地委員会の農地調整法第十五条の二第三項第一号の区分より選挙せられた委員の改選決定が無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求めた。

事実

原告等三名は、訴外松浦哲造、川合惣太郞と共に、凾館市湯の川地区における農地調整法第十五条の二第三項第一号の区分(以下単に小作層と略称する)より選挙せられた、同地区農地委員会の委員であつた。ところが訴外米田米蔵は、昭和二十三年七月三十日被告に対し原告等小作層選出の委員が反小作層的であり、農地買収については、専ら地主側に追随して農地改革の実行を阻害しているという理由で、同法第十五条の十第二項の規定に基き、右小作層に属する有権者五六八名の同意を得て、原告等委員全員の改選を請求したところ、被告は右同意者中無資格者五五名、重複同意者七名、同意取消者八名、合計七〇名の同意無効者を控除した四九八名の同意を有効とし、該小作層の総有権者九五四名の二分の一(以下単に法定数と略称する)以上の同意があつたものと認めて右解職請求を採択し、同年八月三日原告等を含む小作層選出の委員全員の改選を決定し、同日その旨告示したので、原告等は同月十一日被告に対し異議を申立たが却下せられた。

しかし右解職請求の同意をしたものの中には、被告が同意無効と認めた右七〇名の外、更に本人不知の間に記名押印せられたとか、或は解職請求に同意するため記名押印したのでない等、同意の意思を欠いた無効のものが三〇名あり、これを右四九八名より除くと、右解職請求同意者の総数は四六八名となつて、法定数の同意を得ないことに帰着するから、該解職請求に基いてした被告の前記改選決定は、無効と言わねばならぬ。よつてこれが無効確認を求めるため本訴に及んだのである。

なお被告がリコール制の運営について、正しい管理の職責を尽さず、誤つた解職請求に基く改選決定を有効として争う以上、これが濫用を防止できず、現在委員たる原告等は将来において再びその地位を不法に侵害せられる虞が多分にあるから、これを避止するためにも裁判上本件改選決定の無効確認を求めるにつき、即時確定する利益があると補述し、被告の主張事実中、原告等が昭和二十三年八月十七日執行せられた凾館市湯の川地区農地委員会の小作層委員のリコール選挙に立候補し、その結果いずれも委員に当選したことは認めるが、その余の点は否認する。

(一)  解職請求同意の意思表示は、自署を以てなされねばならず、記名押印の形式による同意は無効である。

(二)  原告等は、改選決定に基くリコール選挙の無効を争うのではなく違法且つ無効な解職請求に基いてなされた、被告の改選決定により、原告等は一時的にもせよ農地委員たるの職を失い、そのため社会的信用をなくし、名誉を毀損せられたから、法律上これを回復すると共に将来損害賠償の請求その他によつて原告等の地位を保全するため、リコール選挙の無効とは別個に改選決定の無効確認を求める次第であつて、原告等が、該リール選挙に当選したことは自から別問題であると述べ、証拠としての甲第一ないし第十一号証を提出し、証人菅藤善六、久保カセ、藤原幸吉、佐々木幸之助、蛯沢治六、佐々木とみよ、工藤アサ、太田イシ、山田マツエ、高橋ウヨ(第一、二回)、松村初太郞、松村ハル、蛯沢ミツエ、松浦サル、橋本淸松、荒橋チヤ及び波多トメの各証言を援用した。

被告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、答弁として、原告等がいずれも凾館市湯の川地区における小作層より選挙せられた同地区農地委員会の委員であつたこと、訴外米田米蔵が被告に対し、原告等主張の日に、主張の如く解職請求をなし、被告が原告等主張の日に主張の如く原告等を含む小作層選出の委員全員の改選を決定し、その旨告示したこと、及び原告等がその主張の日に被告に対し異議を申立たが却下されたことは認めるが、その余の原告主張の事実は全部否認する。解職請求同意の署名は、必ずしも自署たるを要せず、記名押印がある以上同意の意思表示があつたものと認めてよいわけで、被告が本件署名を解職請求同意の意思表示と解し、該同意者が、本件小作層選挙人名簿に登載せられているかどうかを調査してその有権者の二分の一以上の同意があつたものと認め、改選の決定をしたのであるから、該決定は適法である。仮に原告等主張の如く無効な同意があり、その結果解職請求が法定数の同意を得るに至らなかつたとしても、法定数の同意を得たかどうかは、改選決定の時を標準とし、その後になつて、同意の無効のものが判明したため、法定数の同意を欠く結果となつたとしても該決定の有効、無効に何等消長を来たさない。仮に右決定が無効であるとしても、原告等は昭和二十三年八月十七日執行せられた凾館市湯の川地区農地委員会の小作層委員の改選(リコール選挙)に立候補し、その結果いずれも委員に当選したのであり、且つ原告等は右リコール選挙における選挙無効を争わず、単に改選決定自体の無効を争つているにすぎぬから、結局本訴は過去の権利又は法律関係の確定を求めることに帰着する。従つて本訴は即時確定の利益がないから失当として排斥を免れぬ。仮にそうでないとしても、原告等は昭和二十四年六月法律第二一五号(農地調整法の一部を改正する等法律)の改正規定に伴う経過条項第六条、同月政令第二二四号附則に基き、昭和二十四年八月十八日執行せられた凾館市湯の川地区農地委員会委員の総選挙に立候補し、原告古川は同委員会小作層委員に、原告伊藤、小宮の両名は同じく中立委員に当選したから、原告等が本訴において求める改選決定の無効確認は、全く過去に行われたリコール選挙に関連する法律関係の適否の確定を求めるに外ならず、本訴は即時確定の利益を欠くものと言わねばならぬ。なお、原告等がリコール制の運営について抱いている危懼も、右改正法令の施行により立法的措置を以て解決せられたから、この意味においても原告等の本訴請求は確認の利益がない。

よつていずれの点よりするも失当として棄却を免れないのであると述べ、証拠として証人山下義晴の証言を援用し、甲第八号証の中、菅藤善六、久保カセ、藤原幸吉、佐々未幸之助、蛯沢治六、佐々木勝、佐々木とみよ、佐々木ハツ、工藤アサ、太田イシ、山田マツエ、佐々木アキ、出町ソワ、高橋ウヨ、高橋健作、松村初太郞、松村ハル、蛯沢竹、蛯沢ミツエ、松浦サル、松浦兼松、松浦德太郞、安藤ヨシ、橋本淸松、橋本タミ、荒橋チヤ、荒橋直明、荒橋フミ、波多トメ、波多ミサヲの各作成部分の成立は不知、その余の部分ならびに爾余の甲号各証の成立は認めると述べた。

理由

案ずるに、原告等が本訴において主張するところは要するに、被告委員会が、昭和二十三年八月三日訴外米田米藏の請求に基いてした、凾館市湯の川地区における小作層より選挙せられた同地区農地委員会委員の改選決定は、法定数の同意を得ない解職請求によつてなされた無効のもので、原告等は無効、且つ違法な改選決定により、一時的にもせよ農地委員会の委員たる職を失わしめられ、そのため社會的信用を失い、名誉を毀損せられたから、法律上これが不名誉を回復すると共に、將来損害賠償の請求等によつて原告等の地位を保全する前提として、リコール選挙の無効とは別個に改選決定自体の無効確認を求める趣旨であることは、原告等の主張それ自体に徴し、明かなところである。しかし確認訴訟は現在の権利又は法律関係の存否を即時確認することにつき、法律上の利益が存するときに限り提起できるものであり、且つ單に過去における権利又は法律関係の存否は、たとえこれが現在の権利又は法律関係の先決問題となつている場合においても、その救済を求める方法は自ら他に存するのであるから、これが存否の確定を求めることができないと解するのが相当である。しかして原告等が、昭和二十三年八月十七日執行せられたリコール選挙に立候補し、その結果いずれも農地委員に当選したことは原告等の自認するところであるのみならず、その後本件訴訟の係属中である昭和二十四年八月十八日、同年六月法律第二一五號(農地調整法の一部を改正する等法律)による農地調整法の改正規定に伴う経過條項第六条、同月政令第二二四号附則に基き、凾館市湯の川地区農地委員会の委員の総選挙が執行せられたことは、当裁判所顯著な事実である。そうすると原告等の本訴請求は将來の損害賠償請求権を行使する前提としてであつても全く過去の法律関係の確認を求めることに帰着し、被告委員会が先になした改選決定の無効確認を求めるについては、前叙説明の加く、何等即時確定する法律上の利益がないと言わねばならぬから、原告等の本訴請求は、右改選決定が無効であるかどうかの本案の法律関係について判断するまでもなく、失当として排斥を免れぬ。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川島普 裁判官 森松萬英 裁判官 齋川貞〓)

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